アナトール・フランスAnatole Franceには済まないが、彼の代表作『舞姫タイス』を未だに読んでない。勿論翻訳で。名作の誉れ高く、実際、私好みのテーマ、凄く面白いのだと本読み仲間からも聞いている。だが、マスネーの『タイスの瞑想曲』の原本でもあるし、粗筋もとうに知ってしまっている。
そして何より『タイス』の素晴らしい特装本の挿絵がラファエル・フリーダRaphaël Freida (1877-1942) で、大昔、サン・ジェルマンデプレの古書店で手に取って、著者よりもラファエル・フリーダに惚れ込んでしまったのだった。如何に惚れたとて、当時は学生がおいそれと買える代物ではなかった。それきり恨みを飲んだまま、今に至る。即ち誘惑装置。『タイス』を思うと、最早、娼婦に身を滅ぼされてしまう勝手な物語が、私の中に盤居してしまっている。
嗚呼、欲しい。でも決して手に入らない。否、パリへのエアチケット程度だし、通販も容易いが、意地である。手に入れるもんか!!もう欲しくもない。だからなお、原作の『舞姫タイス』とも同衾したくない...。